大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和47年(ラ)41号 決定

抗告人 浅野ムメ

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨ならびに理由は、別紙記載のとおりである。

抗告の理由一について

本件記録編綴の家屋・賃貸借契約公正証書および柴美徳作成の評価書によると、本件競売不動産たる北九州市小倉区米町一三七番七宅地二九九・五〇平方メートル地上の家屋番号一九三番木造瓦葺二階建店舗兼居宅床面積一階二三三・三八平方メートル、一階二三〇・六七平方メートルのうち一階六六・一一平方メートル(右家屋の北西角)については、右家屋の共有者の一人たる高取松寿と桑名芳美間に抗告人主張の内容の賃貸借契約が締結されていて、賃借人桑名がスナックを経営しており、右部分は、他の部分たる料理店(蓬来閣)とは区画されていることが認められる。右賃貸借は、本件家屋についての順位一番の根抵当権設定登記以後に締結されてはいるが、賃貸借期間が三年をこえないものであり、かつ、引渡しを了していることに徴すると、抵当権者ひいては競落人に対抗しうるものといわねばならない。しかるに、右賃貸借が本件競売公告に記載されることなくして競売手続が進行して本件競落許可決定に至ったことは、記録に照らし明らかである。してみると、本件競落許可決定は、記載すべき賃貸借の記載を欠いた違法な競売期日の公告に基づくものというべきである。しかしながら、競売期日公告に賃貸借を記載させる法意を考えてみると、競売不動産につき抵当権者ひいては競落人に対抗しうる用益権者があるときは、競落人は、競落不動産の所有権の内容を制限される不利益を受けることあるにかんがみ、専ら競買申出人にあらかじめ賃貸借の存在と内容を警告し、賃貸借がないものとして高く評価して競買申出をし、不測の損害を被ることのないようにするためであると解するのが相当である。してみると、抗告人主張の理由は、競売法第三二条第二項の準用する民事訴訟法第六七三条の趣旨に照らし本件家屋の共有者たる抗告人についての適法な異議理由となしえないというべく、所論は採用できない。

同二について

本件競売調書によると、昭和四七年三月二四日の競売期日において、最高価競買人たる南道雄の氏名およびその価額が呼び上げられ、同人の署名押印がされていることが明らかであり、抗告人の主張事実については、これを認めるべき資料はないから、抗告人の右主張は、理由がない。

しこうして、その他本件記録を精査しても、原決定を取り消すべき事由は認められない。

よって、本件抗告を理由なしとして棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 亀川清 裁判官 桑原宗朝 富田郁郎)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例